【対談】茂木健一郎×橋下徹

ゲスト
茂木健一郎 Kenichiro Mogi1962年、東京都生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞を受賞。『幸せとは、気づくことである』(プレジデント社)など著書多数。

★人工知能(AI)の飛躍的進歩によって 数年後の人間の生活は大きく変わるという。 日本に"脳科学"を広めた茂木健一郎氏に、身近な話題から 日本の制度、息子の受験までトコトン聞いた。 石ノ森章太郎原作のSF漫画。異なった特殊能力を持ち、出身国の異なる9人のサイボーグ戦士の活躍や日常を描いている。

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■なぜ今脳科学が注目されるのか

橋下
お久しぶりです。今日は茂木さんの専門の脳科学について真面目に聞きたいと思います。脳科学は茂木さんによって世間一般に知られるようになりましたが、昔からあった学問なんですか?

茂木
歴史はそんなに古くなくて、じつは僕自身も脳科学についてよく知らなかったんです。 僕はもともと大学で物理学を学び、博士号もそれでとってます。30歳で理化学研究所に就職した当時、ブームだった人工知能(AI)を探求するうちに脳に関心を持ったんですね。今の脳科学は、医学、物理学、数学、認知科学、心理学など、あらゆる分野の研究者が参入する学際領域になっています。

橋下
今は何を研究の中心にされてるんですか?

茂木
「意識」や「心」を生む脳のメカニズムの解明がライフワークです。最近は将来の自動運転との関連で「人間の倫理判断はどのように脳の中で処理されているか」に興味がありますね。

橋下
本当に真面目な研究者なんですね(笑)。先日、蕎麦屋で酒を飲みながら話したときは、そんな姿をちっとも見せなかった。

茂木
脳科学って今、社会のあらゆる領域に関わってるんですよ。橋下さんの専門である法律なんかも脳と無関係じゃない。例えば刑事司法の大前提である「自由意思」の問題です。今の日本では、罪を犯した人が「やめようと思えばやめられたのに、犯行に及んだ」と、つまり自己の意思で罪を犯したから、刑事責任を問われるじゃないですか。

橋下
ええ、刑法の「古典学派」と呼ばれる自由意思を前提とする考え方ですね。

茂木
でも脳科学の立場からすると、人の自由意思って極めてあやふやなんですね。学者の中には「自由意思は幻想でしかない」と主張する人もいます。

橋下
刑法の考え方には、犯罪者の自由意思を重視する立場の古典学派と、個人の持って生まれた資質や環境によって犯罪が起こると考える新派、2つの立場があります。僕らは大学で古典学派を学びましたが、旧ソ連などは後者の環境に重きを置く立場をとっていました。自由意思の存在があやふやということは、脳科学的には犯罪も人の環境で決まるということですか。

茂木
ざっくり言うと脳も物質なので、物理法則で動いています。物理法則で決まるということは、殺人も「本人がやりたくてやった」というより、「脳がそう動いた結果、殺してしまった」と考えられるんです。

橋下
なるほど、僕らは司法試験の勉強で、最初に新派の否定から学ぶので、驚きです。でも、環境で犯罪性向が決定されると考えるのは、危険じゃないですか?

茂木
危険ですよ。

橋下
生まれとか育った環境で将来の犯罪性向が決まってしまうなら、本人はどうしようもないですからね。新派に影響を与えたチェーザレ・ロンブローゾというイタリアの心理学者は「犯罪者は生まれつきの顔つきでわかる」と主張して、かなり批判されました。

茂木
僕も「罪を犯しそうな顔」なんてないと思いますが、犯罪者の生育履歴を調べると、環境の総合的な結果として犯罪が行われることは科学的に否定できないんです。でもそれを社会に適用すると大変なことになるから、誰も断言できないのですが。

橋下
日本の刑法理論でも新派の適用は難しいですね。「自由意思」は幻想かもしれませんが、それがあると考えないと犯人に責任を問えないですからね。しかしこれから脳科学が発達すれば、法体系も自由意思と環境を合わせて考える方向にいくかもしれません。

■世界で進む デジタルレーニン主義

橋下
しかしこの話を突き詰めると、中国が今進めている買い物や借金の履歴などの「信用スコア」のようなものができませんか。個人がどんな親のもとで生まれ育ったか、AIを用いて分析することで、「将来の犯罪可能性」もスコア化される懸念がある。

茂木
橋下さんはやはり賢い!その話って今まさに、「デジタルレーニン主義」と呼ばれてたいへんな問題になっているんです。レーニン主義はもともと「民主的な選挙と議会を経ずとも、民意を代表する権力者が効率よく政治を進めればいい」という思想ですが、デジタルレーニン主義は、システムに評価された個人が社会の方向に合った行動をすることで、社会全体が最適化されるはずだと考えるんです。

橋下
中国は実際、その方向に動いてますね。僕は中国の一党独裁体制は絶対に認めたくないんですが、一方で民主主義の多くの国も政治がダメになってますよね。アジアやアフリカの国の中には、中国の国家運営のほうが自由主義より効率的だと考えて、真似をするところが出てきている。さらに科学を追求していくとデジタルレーニン主義が勝つ可能性もゼロではない。

茂木
効率優先なのか、それとも別の価値観を大切にするのか。理想的な国家の体制をつくるうえでも、人間の脳を理解することが大切になってきてるんですね。

橋下
個人的な興味としてお聞きしたいのですが、話をしていて「この人頭いいな」とか、逆に「頭悪いな」と感じるときがあります。頭の善しあしも脳のメカニズムで決まるんですか。

茂木
チャールズ・スピアマンという人が、子どもの成績を統計的に分析することで脳の知的能力を決める「共通因子」を見つけたんですね。それは「g因子」と呼ばれてまして、IQの計算にも使われています。そのg因子は、前頭葉の集中力に関わる回路の活動と関係あることが研究でわかってます。頭のいい人はすごく深く集中できるけれど、あまり頭の働かない人は、深く集中できない傾向があるようなんです。

■AI時代になっても 学ぶことが大切な理由

橋下
頭のよさは集中力で決まるんですね。うちの三男坊が今受験なので、一生懸命勉強しているのですが、集中力は後天的な努力によって高められるんですか?

茂木
受験勉強を通じてもできますよ。集中の負荷をかけ続けるのが効果的なので、20分の制限時間の問題であれば、15分でやってみる。時間的な制約をきつくすることで集中力は高まりますから。

橋下
受験勉強は、集中力を高める訓練になるわけですね。ネットで何でも調べられる時代になって、「記憶することには意味がない」という意見が聞かれるようになりましたが、今のお話を聞くと、脳に負荷をかけることがプラスになるということか。それに関連して100万回ぐらい聞かれてる質問だと思いますが「AIの発展によって人間の仕事が奪われる」といわれてますけど、それはどう思いますか?

茂木
AIにペーパーテストで勝てる人間はいません。しかし脳科学では「ニューロダイバーシティ」といって、頭のよさにもいろんな種類があると考えます。例えばアメリカのデイビット・ボイスという弁護士は、ディスレクシア(識字障害)で文章が読めないんですが、全米一の法廷弁護士で有名なんです。

橋下
それはアメリカの司法制度は書面主義ではなく、公判主義といって、法廷での証言を陪審員が聞いて判断を下すからですね。日本の弁護士は書面を書くのは得意だけれど、英語を使って法廷で戦える人はほとんどいないから、アメリカに留学するとみんな苦労してます。

茂木
おそらく彼は、文字情報を処理する脳の回路がうまく働いていない分を、口で話す回路が補っていると考えられます。そんなふうに人間の能力って、何かが劣っている分を、ほかでカバーするようになっているんです。面白い話で、アインシュタインといえば天才の代表格ですが、彼自身が「じつは数学が苦手だ」と告白してるんです。アインシュタインは数学が苦手でも、物理的直感が異次元レベルで優れていたんでしょうね。

橋下
なるほど、面白い。

茂木
そう考えると、人間の能力って本当に不思議なんですよね。それで、天才の子どもはだいたい凡人になるんです。アインシュタインの子どもも物理学者なんですが、ウィキペディアにはたった一言「いい人だった」と書いてあります(笑)。モーツァルトの子どもも、2世として売り出したんですが、鳴かず飛ばずでした。つまり天才は遺伝せず、逆にいうとどんな凡人からでも天才が生まれる可能性があるんですよ。

橋下
なるほど、勉強になりました。お話を伺って、これからの時代は『サイボーグ009』のような異能集団がそれぞれの個性と能力を生かして、チームで戦うことがAIに負けないために必要なんだと感じました。またお好み焼きでも食べながら、茂木さんのお話を聞ける日を楽しみにしています!

※「みんなのJAPAN MOVE」を再構成(プレジデント社 PRESIDENTより抜粋)

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