【対談】三浦瑠麗×橋下徹

ゲスト
三浦瑠麗 Lully Miura 国際政治学者。1980年、神奈川県生まれ。神奈川県立湘南高校、東京大学農学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。 著書に『21世紀の戦争と平和』(新潮社)など。

★56年ぶりのオリンピック開催に沸きたつ日本。 その陰では、少子高齢化、ブラック企業、エネルギー転換、移民問題など多くの課題を抱えている。 橋下徹が有識者との対談を通して、解決の糸口を探っていく。

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■シンガポール、香港と大阪の大きな違い

橋下
今日は2025年の大阪万博に向け、大阪が飛躍していくヒントを、東京からお越しくださった三浦瑠麗さんからいただきたいと思います。三浦さんのご主人はファンドを立ち上げ、シンガポールと香港を拠点に事業をされています。三浦さんがそれら3都市と比べて、大阪の弱点や気になることってありますか?

三浦
2つあります。ひとつは「グローバル企業が少ないこと」。香港は世界最大のIPO(新規公開株)のマーケットですし、税率の低いシンガポールは競争力のあるハブになっています。グローバル企業がアジアに拠点を構えるとなると、大阪ではなくシンガポールや香港になりますよね。もうひとつは「観光客にとっての街の使い勝手」です。最近は私、東京ではほとんど現金を使わず、タクシーもキャッシュレスです。オリンピックを控え、サービスや車両自体のクオリティが上がっている東京と比べて、大阪のタクシーは運転手のサービスもバラバラに感じます。

橋下
観光客は到着後最初にタクシーに乗るので、そこで差を感じられるのは大阪の弱みですね。大阪ではいまだにタバコ臭いタクシーが走ってるけど、東京ではありえない。でも、外国人観光客の伸び率は、大阪が全国でトップクラスなんですよ。

三浦
大阪は現時点でもとても面白い街です。食べ歩きをはじめ、ローカルな魅力が充実しているからなんでしょうね。だから多くの人は、今までのやり方でいいと考えている。でも何回も来てもらうには、常に違う魅力の提示が必要です。ロンドンもパリも、「ロンドンっ子やパリっ子がいいと思うもの」に観光客が押し寄せています。大阪も大阪の人がエキサイトできるものをどんどん生み出して提供していくと、幅が広がると思いますね。  今日の会場の中之島公会堂がある中之島の再開発では「水辺での憩い」を打ち出しているようですが、これは日本では珍しい。国家主導で都市づくりをしているシンガポールや、歴史あるロンドンなどは、水辺や公園の利用と眺望を重視した開発をしています。日本の不動産の値段は「主要駅に近い」ほど高くなります。いくら眺望が素晴らしくても、山の上や僻地にあれば値段がつかない。でも路線価とか容積率だけでなく、クオリティ・オブ・ライフの観点からいえば眺望のようなものにも価値を見出すべきです。

橋下
そのとおり。中之島はすごく眺望がいいんですよ。08年に僕が大阪府知事に就いたとき「橋をライトアップしてくれ」と大号令をかけたら、役所に「橋なんか照らしてどうするんだ」「先に道路造るほうが大切でしょう」と猛反発されました。でも、眺望って重要ですよ。

三浦
ええ。

橋下
その当時、役人が「〝水都・大阪〟を体験してください」って言うわけ。それで八軒家浜から船に乗って、経済界の重鎮と川岸の街を見て回ったんですが、真っ暗で面白くもなんともない。景観もへったくれもなくて「これ、なんなんですか?」と。府民も、大阪が「水の都」をアピールしてるなんて誰も知らなかった。だから明るくライトアップして仕掛けていこう、と。今、川沿いにテラス席を構えたおしゃれなレストランが次々できてます。それらは民間事業者ですが行政主導で特区を活用し、護岸工事をした結果です。そういうのが都市戦略としての世界標準だよね。

三浦
そうですね。大阪は今、産業的には愛知に負けてますけれど、人が集まる交差点的な魅力が街にある。それをもっと活かせば、観光客だけでなくビジネスを目的とする人もたくさん集まるはずです。

橋下
僕は知事時代に、大阪の方向性を「これからの時代の中継都市にする」と決めました。海外からヒト・モノ・カネを大阪に一回集めて、大阪から海外や日本全国に向けて発信していくという方針です。

三浦
賛成です。中継都市になるためには様々な先進的な取り組みが必要ですが、「大阪には高度な人材がいる」と認識されることも必要。だからこそ教育に力を入れ、女性の活躍にもっと舵を切るべきだと思います。私の主観ですが、維新の会には女性の存在感があまりないですよね。そもそも東京とは違って、発想に「女性のエリート」という概念が希薄なんじゃないかと感じたんですね。

橋下
三浦さんみたいな?

三浦
まあ、私が大阪にいたら異質であることは確かですね。女性のエグゼクティブが大阪に少ないのは、産業やグローバル企業が東京に集中していることもあるでしょう。問題は、「男性と完全に対等な女性のモデル」が東京にしかない、という現実だと思います。大阪はステキな都市だけど、私自身、相手の社会文化に対する考えにびっくりさせられることが多いという感覚はありますね。

橋下
東京は世界の主要都市の一つだから、外圧みたいなものもあって、女性の地位が世界標準に近づいているんだと思う。日本の昔ながらの女性観では、世界に通用しないことにみんな気づいている。

三浦
現に東京は小池百合子さんが独自の権力で都知事になりましたけれど、大阪の維新からは吉村洋文さん、橋下さんみたいな女性リーダーは出てないじゃないですか。

橋下
僕は男女の数は半々なんだから、女性がビジネスや政治の世界で半分を占めていくというのは当然だと思う。働きたい女性が働ける環境を整えることは重要です。一方、それを強調しすぎると、「じゃあ仕事をせずに家庭や地域をしっかり守る女性は、活躍していないのか?」と、引っかかるんです。それでフェミニストの田嶋陽子さんと、番組でずいぶんケンカしました。

三浦
よく覚えてます(笑)。

橋下
あの方の果たした役割を僕は認めています。かつて女性の地位が非常に低く見られていた時代は、田嶋さんや上野千鶴子さんなどのフェミニストが中心となって、それを正す必要性があった。

三浦
男女雇用機会均等法ができてからまだ30年ちょっと、社会の隅々にまで浸透するにはまだまだ時間が掛かります。働くことを選ぶ女性は増えましたが、「働いて、子どもも産んで、家事もして、育児の中心は妻だ」というのでは、死屍累々です。でも、今は過渡期だと思うんですね。古い価値観の親世代から代替わりすることで、子育てや家事も仕事と同様に、男女が公平に担当して当然、という社会になっていくはずです。

橋下
僕は、「働くことと家を守ること、両方とも女性の活躍と認める社会にする」のが、これからの女性の地位向上に必要だと思うんです。保育園の問題も、今は「働く女性」の子どもが入れないことが焦点ですが、「専業主婦の女性」の子どももみんな受け入れるべき。お母さんだって、子どもと離れて息抜きできる時間を持って当然だからね。

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■三浦家、橋下家の夫婦の仕事分担

三浦
専業主婦にも自分だけの時間は必要ですし、保育園の集団の教育効果も高い。子育ての重荷を保育園やナニーに一部担ってもらう補助の制度は、とても有効だと思います。でもそれだけだと女性の自己実現はできません。人間の尊厳を守るためには、「経済的な自立」と「自己決定権」が必要なんです。多くの女性は小さな経済的自己決定権しか行使していません。例えば、車を買うという決定権を持っているのって、ほとんど男性ですよね。たぶん橋下家でも「大きな買い物、大きな決断」は橋下さんが決めてるでしょ?

橋下
そういう三浦さんの家では、高額商品を三浦さんがバンバン買ってるわけ?

三浦
自由になる日本円は夫よりあるかもしれませんね。夫のように外貨は自由になりませんが、日本では逆転しているのかも(笑)。もともと夫とは対等な関係でしたが、私が社会的、経済的に自立したことで、さらに対等になった感じがあります。

橋下
なるほどね。家事なんかも平等に負担してるの?

三浦
洗濯なんかは私がよくしますが、平日の夕食は基本的に外食です。シンガポールは外食が安くて共働き家庭も多いので、家族が食堂で夕飯を食べたり、買って帰る文化が当たり前なんです。共働きが定着している国は、妻が夕食に4品も5品も作ったりしません。でも、日本の家庭の多くは相変わらず「奥さんの労働力はタダだから手をかければかけるほどいい」と思ってますよね。

橋下
耳が痛いな......。仕事で海外から戻って、何品もおかずが出てくると「幸せ!」って思うけど、そういうのがよくないっちゅうことやね。

三浦
あらま。そうですよ。食洗機を買うとか、食事はもう少しシンプルにするとか、外食を増やすとか手を打ったほうがいいですね(笑)。

橋下
仕事をしながら家庭も切り盛りしている三浦さんならではの指摘ですね。うちの妻は僕のマネジメント会社の社長を務めてくれてますが、家事に関しては全面的に頼り切ってます。僕はこれまで政治の世界で大きなことを言ってきましたが、その前に家庭内で「まず一品減らす」を実行しようと思います(笑)。

※「みんなのJAPAN MOVE」を再構成(プレジデント社 PRESIDENTより抜粋)

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