Question
■「ジョブ型」時代のリーダーシップ
メンバーシップ型からジョブ型へ。日本企業の人事制度が変わりつつあります。企業からは、突出したアイデアや、とがった個性を歓迎するというメッセージも聞かれます。しかし、現実にはシステム開発大手などのIT系企業も、採用に当たっては「文系・理系を問わず、チームワークを重視する」という姿勢を示しています。これからのビジネスリーダーには、メンバーのとがった個性を生かしつつ、チームワークで勝つという難しい仕事が求められます。新しい時代のリーダーシップについて、橋下さんの持論を教えてください。
Answer
■役所でも役立ったラグビーのイメージトレーニング
まず「チームワーク」と「個性」を相反するものと捉えるとしたら、それは違うと思います。両者は相反するものではなく、バランスを取りつつ補完していくことが大事です。
高度成長期の日本企業みたいに、目標がほぼ1つに定まっていて、そこへ向かって突進していけばいいなら、チームワークを優先して個性がないメンバーを集めればいい。この考え方に立つなら組織運営は簡単です。
でも、このような「チームプレーだけ」の価値観では、集団に付加価値がつきにくい、あるいは特色が出せないという問題に突き当たります。高度成長期の日本企業にしたって、実際には「個性がない」というより、メンバーの個性の部分を無視して、チームプレーだけをさせてきたということでしょう。
しかも、今は「何を目指せばいいのかわからない」時代です。最初から目標があるのではなく、むしろ目標を新しくつくり上げる必要があるのです。個性ある目標や方向性をつくり出すためには、メンバー個々の個性や能力、キャラクター、価値観といったものが大事になってきているのです。
とはいえ、チームプレーは要らない、個人の力だけで戦えばいいというわけではありません。「個人の力だけ」で戦っていける世界は限られています。時代が変わっても、ほとんどの仕事でチームワークは必要なのです。
たとえば僕の仕事でも、個人の力、個人のスキルだけを前面に出すことはありますが、現実には複数の人たちとチームプレーで進めていくことが大半です。
では、個人の能力を生かしつつ、チームで勝つにはどうしたらいいでしょうか。目指すべき方向性(目標)を定め、それぞれの役割分担を明確化する。そのうえで、目標達成のプロセスをみんなで共有する、というのがチームワークの基本です。
その際、個性豊かなメンバーに集まってもらう場合にとりわけ重要なのが、役割分担を決めることです。均一ではなく個性が際立っている人たちならば、全員に同じ役割を求めるわけにはいきませんから。
そこで参考になるのがチームスポーツであるラグビーです。ラグビーの15人の選手たちは、ポジションによって求められる役割が違い、体重や身長、スピードやスキルも異なります。そんな個性的な選手たちが束ねられ、勝利という目標に向かってチームで戦うのです。
今から35年前に僕たちの北野高校ラグビー部では、役割分担を徹底させるためにイメージトレーニングを取り入れました。高校ラグビー部としては当時最先端だったと思います。
イメージトレーニングとは、それぞれのポジションの選手が、試合のときにこういう状況になったらこう動き、次はこう動くということを想定し、全員がイメージを共有していくことです。みんなでグラウンドのまわりをジョギングしながら、頭の中で試合をするのです。
まずキャプテンがレフェリー役になって状況設定をします。たとえば敵陣何メートル、右のタッチラインから何メートルのところにボールがあり、敵の状況はこう。フォワードは何人がラックに入っている。バックスラインは浅い、というような設定です。
それをみんなが頭に思い描いてから、「ラックからボールが外へ出た」「9番が10番にパス」「10番が外に開いて13番に飛ばしパス」などと声を出し合い、頭の中で30分ほど試合を進めていくのです。役割分担を共有することが目的でした。
余談ですが、当時はまだ根性練習が幅を利かせていましたから、こんなふうにジョギングしながらイメージトレーニングをしていると、OBからは「何やってんだ。しゃべりながら、だらだら走るんじゃない!」と文句を言われました(笑)。
重視したのは、現場を預かる課長クラスの職員
このように役割分担を徹底させる考え方は、大阪府知事や大阪市長として役所組織に入ったときも大いに役立ちました。
役所はそもそも同質性が求められる組織です。しかし僕は、「前例踏襲ではない行政をやろう」と訴えてその中へ飛び込んだのです。ですから、前例にとらわれない職員の「個人の力」が必要になるのです。
といっても、役所の仕事はどう考えても1人ですべてできるものではなく、チームワークが必須です。そのチームワークに当たって、役割分担の共通認識を持つ必要を感じました。
大阪府庁は1万人、大阪市役所だと3万8000人という巨大組織です。そういう組織を動かすために、分単位で打ち合わせや会議が続きます。役所の中では日常的に数百人と接していたのです。
そこで痛感したのが、役割分担の大事さです。実際に職員に接しているうちに職員個々の個性もある程度わかってきますが、多くは人事部の助けを借りて、打ち合わせや会議のメンバーを選定していきました。
僕が重視したのは、現場を預かる課長クラスの職員です。
通常トップと日常的に接するのは部長以上の幹部ですが、実際に状況を把握しているのは課長であり、知事や市長が部長に質問すると部長は脇に控えている課長に質問することになります。だったら、一番わかっている職員(課長)と直接話をすれば効率的だと考えたのです。
ただし、指揮命令系統を崩すと組織がきちんと動かなくなります。そのため、責任者である部長や局長には来てもらいますが、あくまでも僕と話をするのは課長という形にしました。
それだけでも、役所においては前例破りですから「えっ! 課長と知事(市長)が直接会議するんですか?」と驚かれましたよ(笑)。