「文春記事の『修正』を暴いた僕からフジテレビ経営陣に伝えたいこと」
Question
■信頼回復のためにフジテレビがやるべきことは?
元タレント中居正広氏の女性トラブルが表面化したのをきっかけに、フジテレビの企業姿勢が厳しく問われています。約70社のスポンサー企業が一斉にCMを引き上げ、社長、会長が引責辞任する事態に発展しましたが、それでも批判はやみません。危機管理の観点から、フジテレビの対応をどう評価しますか。
Answer
■第三者委に丸投げせず、報道機関らしい調査・公表を
今回の騒ぎの特徴は、中居さんのトラブルに関しフジテレビの関与や責任がいまだ不明であるにもかかわらず、一気にスポンサー離れが進んでしまったこと。仮に一部週刊誌が報じたように、当該トラブルにフジテレビ社員が意図的に関与していたのであれば大問題です。また、大物タレントへの女性アナウンサーの組織的な「上納」があったとすれば、これまた大きな不祥事に違いありません。
でもこの件、実は2月中旬時点でも事実は全く解明されていないんですよね。いろいろな噂や臆測は飛び交うけれど、事実は何も明らかにされていない。なのに、多数のスポンサー企業が一斉にフジテレビからCMを引き上げてしまった。実に異例の展開です。なぜこんな事態に陥ってしまったのか?
キーワードは「共感」です。
まず、トラブル報道を受けたフジテレビの初動は完全に失敗でした。当時の港浩一社長らによる1月17日の記者会見はあまりにお粗末。一番の問題は、テレビ局であるフジテレビがテレビカメラの前で説明をせずに、これを報じたニュースでは港社長の静止画が流れたこと。これでは視聴者の共感を得られるはずがありません。
当然ですがスポンサーはCMを通じて商品やブランド、企業姿勢に魅力を感じてもらいたい。そのために莫大な額の広告費を投じているのです。そこでもし、視聴者の共感を得るどころか反感を買うようなら、企業がCMを流すはずはありません。
たしかに一部週刊誌が報じているように深刻な性被害がトラブルの中核であるならば、非常にセンシティブな事案であり、会見が難航するのは目に見えていました。何より被害を訴える女性自身がトラブルの詳細の公表を望んでいない。当事者間での守秘義務契約もあるため、フジテレビが会見で言えることは少なかったのも事実です。
しかし、だとしても打つ手はほかにもあったはずです。例えば「中居さんと女性の当事者間の問題は私たちからは話せません。でも、社としての対応や過去の"飲み会"のあり方はどうだったかについては、自ら徹底的に調査・報告します」と宣言することだってできたでしょう。
そもそも報道機関である以上、「当事者のプライバシー」を絶対的な盾とするのは卑怯といわれても仕方ありません。本来、プライバシーの制約があっても公共性、公益性を鑑みてギリギリのラインまで踏み込んで報じるのが報道メディアです。フジテレビだって、それこそこれまで幾多の取材対象者にマイクとカメラを向けてきたはず。
なのに、いざ身内の疑惑となったら、プライバシーを盾に「お答えできません」では、身内に甘い組織と思われても仕方ありません。つまりフジテレビの過ちは、「報道機関なのに報道から逃げた」姿勢そのものだったのです。
フジテレビ経営陣も遅ればせながらそのことに気づいたのでしょう。1月27日、今度は時間も記者数も制限なしのフルオープンな2度目の記者会見を開きました。ところがその結果、記者の怒号や罵声が鳴り響き10時間以上も混乱が続くという異常事態を招いてしまいました。しかもそれだけの会見を行ったにもかかわらず、スポンサー離れは収まりませんでした。
ところでその間、中居さん問題の報道で先行していた『週刊文春』は、被害女性の主張内容をシレっと修正していました。2024年12月26日発売号の第1弾では、問題が起きた飲み会に女性は「フジテレビ社員に誘われた」としていたのに、25年1月8日発売号の第2弾では「中居氏に誘われた」に変わっていたのです。僕が週刊文春の取材に応じてその旨を指摘したところ、文春側は、フジテレビ経営陣が質問者にボコボコにされた1月27日のフルオープン会見の翌日になって、「取材を進めるうちに事実確認が進んだので表現を変えた」という趣旨の謝罪・訂正をHP上に掲載しました。
■記事の重大な「変化」になぜ気づけなかったか
しかし「文春報道」の前提となる重要事実が変わったのですから、それがわかった時点で謝罪・訂正の発表をすべきでした。フジテレビ社員が女性を誘ったのではなく、中居さんが誘った事実を文春が確認したのは1月6日だということを文春自身が認めています。もしその時点で公表していたら、その後の事態は変わっていたでしょう。
もっとも、あえて言わせてもらえば文春の記事の変化にこの僕が気づいたくらいですよ。会見場に殺到した400人近くの記者たちは、なぜそれに気づかなかったのか。フジテレビ側にしても、しっかり文春の続報を読み込んでいれば、この記事の重大な変化に気づくことができたはずなんです。
フジテレビ社員が女性を誘ったのか、中居さんが誘ったのかはフジテレビにとっては重大な問題です。本来ならフジテレビ自身が会見前に文春記事の変更点を記者たちに指摘して、自分たちが一貫して主張してきた「トラブルの当日は、フジテレビ社員側の関与は現時点では確認されていない」ことを明確に訴えるべきでした。
さらに言うと、フジテレビは今後の調査を日本弁護士連合会(日弁連)のガイドラインに沿った第三者委員会に任せると発表しています。独立性が確保された委員会に委ねること自体は信頼回復を進めるうえで大切です。ただ、そこへ「丸投げ」することは避けなくてはなりません。
実は日弁連のガイドラインに沿うことには問題が多いのです。例えばガイドラインに準拠すると第三者委員会の調査結果が出るまでフジテレビは何もできなくなります。第三者委員会の判断に影響するからです。
しかしフジテレビは報道機関です。自ら事実を解明・公表し、自浄作用を発揮することが視聴者やスポンサーからの信頼を得るための柱となるはずです。自らやれることは、しっかりと前へ進めるべきです。
第三者委員会が解明すべき大きな問題点は3つあります。中居さんの起こした女性トラブルにフジテレビや社員はどう関わっていたか。トラブルの認識後もフジテレビは中居さんの番組をすぐには打ち切らず1年半も継続しましたが、その対応は適切だったかどうか。また、中居さんのトラブルに限らず、社員が今の時代に合わない不適切な"飲み会"をしていたかどうか。
こうした一連の対応の是非を検証するには、被害を訴える女性個人のプライバシーにも一定程度踏み込んだ調査・公表が避けられません。ただ、弁護士チームである第三者委員会はともすると女性のプライバシーを尊重するあまり調査に及び腰になり、事実解明が不十分になる恐れがあります。そうならないためにも、フジテレビ自身が個人のプライバシーと報道・調査に関する「会社としての方針」を第三者委員会にしっかりと伝えていく必要があるのですが、実はそうすること自体、「調査を受ける会社が調査に口出ししてはならない」という日弁連のガイドラインに違反する可能性が出てきます。では、どうすればいいか。
ここはフジテレビの覚悟の見せどころです。「日弁連のガイドラインのほうが問題だ。しっかりと事実解明をするためにも、全責任はフジテレビが負うので当事者のプライバシーを盾にしない調査を行ってほしい」と第三者委員会へ明確に告げるのです。そんな覚悟と気迫をともなう強い姿勢こそが、視聴者やスポンサーからの信頼回復をもたらすのです。
繰り返しますが、権威があると思われているガイドラインや第三者委員会に丸投げする姿勢は禁物です。常に主体性を持つことが必要なのです。